表紙と函 本文 挿絵

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 押川春浪(1876〜1914)の最初の著作で、軍事冒険小説の原型とされる。
 発表された1900年は、日清戦争が終結し、日露戦争へと向う時期で、『浮城物語』(矢野龍渓)以来の南進論の影響を強く受けた内容である。1898年『少年世界』に連載された「新八犬伝」(巌谷小波)なども南進論を背景にしているがあくまでもお伽噺の枠内にとどまっていた。その点、小説ならではのスケールの大きさやストーリー展開の面白さなどは、お伽噺を卒業した少年たちの冒険心に訴えた創作として、ベストセラーになった。
 簡単に梗概を述べると、語り手である私は、世界漫遊の旅先で学生時代の友人に出会い、妻子を日本に連れ帰るよう頼まれる。しかし、途中海賊に襲われ船は沈没、子どもと二人でボートで逃げ出し、偶然にも、日本海軍の桜木大佐の指導のもと海底戦闘艇を密かに製造する孤島に漂着する。3年後、戦闘艇は完成し、津波によるトラブルも、味方の巡洋艦に助けられて克服し、戦闘艇と巡洋艦で海賊を退治する、というもの。
 発兌元の文武堂は、本書に先立って桜井鴎村訳述による叢書「世界冒険譚」の刊行を開始しており、冒険譚というジャンルに関心のあった出版社である。春浪は、鴎村の紹介で巌谷小波に閲読を請い、出版にこぎつけた。ちなみに袖珍本並製という本書の造本や定価は、「世界冒険譚」と同じである。
 海底軍艦や冒険鉄車という新兵器にはヴェルヌの影響が指摘できよう。SFの流れを汲みとっている点では、海野十三のSFへと続く位置に立っていた。また軍事冒険の流れは、『亜細亜の曙』(山中峯太郎)などへと続く。春浪は、この後、『英雄/小説|武侠の日本』ほか5冊の「武侠小説」を発表する。これらは『海底軍艦』を発端として連続する大長編とみることも可能である。
 1963年に、本作を大幅に脚色して映画化(「海底軍艦」東宝)され、1974年に復刻版がほるぷ出版より刊行された。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則