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 「世界お伽噺」全100冊の第1編。造本などは「日本昔噺」「日本お伽噺」とほとんど同じで、類似の叢書という印象が強い。巖谷小波(1870〜1933)が再話の対象を日本から世界へと広げたもの。「世界お伽噺」叢書は、世界各地の神話・昔話・伝説をはじめ、アンデルセンなどを子ども向けに易しく興味深く紹介しており、完結までにほぼ10年の歳月を費やした。冊数や収録した話の多様性など規模の大きさは、空前のもので、一人の著者によるものとしては、その後もほとんど類をみない。刊行中、小波は、渡独し、そこでも話材の蒐集につとめたこともあって、現在でもあまり知られていない話も少なくない。  第1編の「世界の始」は、旧約聖書から、天地創造、エデンのアダムとイブの追放、ノアの箱船と、よく知られた3つのエピソードを短く再話。また、「人間の始」は、ギリシャ神話とドイツ人の著した『太古の伝説集』からとったもので、人間をつくったプロメトイスの話と、その子ドイカリオンが、船で洪水を逃れて行き着いたパルナツス山で、天の声にしたがって石を投げると、新たに人間が誕生したという話である。  刊行途中から、発音通りの表記(いわゆる「お伽仮名」)を採用し、さらに「仮名遣を改め、文章を直した計りでなく、その内に収めるものや、やゝ似よつた物を省き、乃至教育上やゝ批難のありそうな物わ、之を除く事にしました。」(「改訂の序」)という方針をとった『改訂/袖珍|世界お伽噺』(全10巻)にまとめた際に、すべてを表音式かなづかいに統一した。  確認できた21版では、表紙の「人間乃始」が、「人間の始」となり、「世界御伽噺」が「世界お伽噺」と一部をひらがなにしたほか、解題を先にして「諸君!」を後にするなど順序の異同がみられる。  「日本昔噺」「日本お伽噺」とならんで好評を博したため、他社から紛らわしい叢書が出た。寺谷大波と称する著者による「世界お伽噺」が傅文館から出され、その第1編(1908年)には、小波の世界お伽噺の続編と謳っていた。他にもお伽倶楽部編で春江堂から同名の叢書がある(1945年刊行開始)など、強い影響力をもった。小波自身は、続編として「世界お伽文庫」(全50編)を刊行した。戦中、戦後も出版社をかえて何度か出版されている。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則