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 「十五少年」は、1896年3月から10月にかけて、博文館発行の『少年世界』に「冒険奇談十五少年」として連載された、明治期を代表する翻訳少年小説である。  原作は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌの「二年間の休暇」(Deux ans de vacances)で、空想科学小説を得意とするヴェルヌの他の作品とはやや趣きを異にした作品である。  休暇を使って小旅行に出かけようと計画した、イギリスの寄宿学校に通う14人の少年を乗せた船が、船員が乗り込む前に岸を離れ、嵐に巻き込まれながらも無人島に流れ着く。その島で14人と黒人の少年船員の1人を合わせた、人種も年齢も様々な15人の少年達が多くの困難を乗り越えて成長し、2年後に故郷であるニュージーランドのオークランドに帰り着くまでを描いた物語である。  この作品は、以前から少年たちの間で人気のあった漂流譚の流れを汲むもので、科学的知識などが豊富に盛り込まれ、絶大なる支持をうけた。連載終了からそれほどの時を待たずに「十五少年」と改題され、博文館から単行本として出版され、重版を重ねてベスト・セラーとなった。「十五少年」という森田思軒(1861〜1897)のつけた邦題はこれ以降定着し、現在でも多くの翻訳がなされているが、「十五少年漂流記」というタイトルのものが多い。  思軒の訳は、二葉亭四迷、上田敏、そして同時代に「小公子」の翻訳で日本の児童文学に大きな影響を与えた若松賤子らと並ぶ明治の四大名訳の一つとされ、高い評価を受けた。「十五少年」では、単行本の「例言」に思軒が「訳法は詞訳を捨てて義訳を取れり」と記したように、それまでの翻訳には見られないような自由さがある。この思軒訳は言文一致体へのステップとなり、当時の翻訳事情に新たな局面をもたらした。また、この作品に描かれた少年たちの心理や人間模様、その困難を乗り越えていく様子は、後の児童文学に多大なる影響を与えた。  初版本は2種ある。その1は国会図書館所蔵本。児童文学館所蔵の22版と比べると表紙1と表紙4が大きく違って黒地に15人の少年の顔を配したデザインとなっている。造本構成は表紙→例言→目次→作品→本文→奥付→広告→表紙となっている。また奥付での発行日は「13日」の日付の箇所の「3」を大橋印で訂正し、手書き文字で「8」に変更、また22版と印刷者・印刷所が異なっている。初版の2は神奈川近代文学館所蔵本。ここでは奥付の初版発行日付が「13日」のままとなっている。表紙は欠落。表紙以外の本体は、薄紙→例言→目次→折込口絵→本文→奥付→広告となっている。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子