表紙と函 本文 挿絵

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 子どもが実際に上演できる脚本集としては、「独逸新作小児演劇」の角書をもつ『外題正月の餅』(1888)に次いで刊行されたもので、最も早い時期の脚本集単行本の一つ。
 本書刊行の三年前の1889年『少年園』に、「正月の餅」と同じ原著から訳出した「新年の餅」(「小供芝居」と注記がある)が掲載された。無署名だが、中川霞城(1849〜1917)の訳と思われ、事実だとすれば早くから狂言に関心を寄せていたことになる。「古雅と滑稽とは山人が亦た幾回か彼の悲壮慷慨なる剣舞と倶に無邪気なる少年の遊戯に供し興味最も多からんと唱導したる所なり」(『太郎冠者』「はしがき」)と自ら述べるように、剣舞と狂言を少年の「遊戯」として重視していた。本書以前にも、中山治次郎編『剣舞と狂言』(張弛舘、1891)に「新狂言」として霞城の作が5編収録されている。また、『小国民』に掲載された狂言も霞城の筆になるものと推測される作品もある。
 本書刊行の翌年には、巌谷小波の狂言『春駒』が刊行されている。子ども自身が上演することも可としていたが、長編でもありレーゼドラマとしての性格が強い。本書は、短編で実際に演じることが前提になっており、「注意」に実際上の留意点が述べられている。
 内容は、著名人のエピソードや、学生を題材にしたものが多く、読者に親近感を持たせるよう配慮されている。たんなる滑稽ではなく、たとえば、好ましからぬ学生を諷刺するといったように、読者への訓戒を意図している。
 狂言というスタイルでの子ども向けの劇脚本は、これ以後皆無ではないものの、ほとんどみられない。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則