表紙 本文 挿絵

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 本書はちりめん本といわれる和綴小本の一冊で、JAPANESE FAIRY TALE SERIES の第1編である。内容は昔話の桃太郎だが、来日宣教師のD.タムソンが英訳して、永濯の絵をつけ長谷川武次郎(1853〜1937)が発行したものである。  約15×10p、全11丁という小本ながら、本書のなによりの特色は、和紙に小林永濯による彩色木版の挿絵と、欧文の活字による物語を配し、それを丹念に何度も縮めてちりめん状にし、絹糸で四つ目綴じにした工芸品のような本にしたことにある。このちりめん本を外国人のお土産用とする説もあるが、武次郎の企画は日本人の英語学習のためのテキストを作ることにあり、同時に日本文学(昔話を含む)の輸出という点で、これは当時にあって最先端の試みと評価できる。  梅花女子大所蔵本は児童文学館所蔵本とよく似ている。ただし児童文学館所蔵の『MOMOTARO』は、表紙を半分欠くために奥付を十分に残していない(両者とも「再版」とある)。この両者は後述する内題を除けば、作品内容はもちろんのこと文字組みも挿絵も同一で、奥付の文字を猿は右から、犬が左からのぞき込むレイアウトも同一である。(ちなみに国会図書館所蔵本では、猿と犬が逆になっている)。違いは本文冒頭の内題にあり、梅花女子大所蔵本は「MOMOTARO or Little Peachling.」とあるのに対し、児童文学館所蔵本は「MOMOTARO Little Peachling.」と「or」がない。  参考のために国会図書館所蔵本と比べると、梅花女子大所蔵本と児童文学館所蔵本の表紙3にはこのシリーズの叢書23冊の書名があるのに、国会図書館所蔵本にはこれがなく白紙となっている。また梅花女子大所蔵本と国会図書館所蔵本の間には、表紙に違いがある。すなわち標題は、国会図書館所蔵本が「MOMOTARO」、梅花女子大学所蔵本では「JAPANESE FAIRY TALE SERIES NO1 MOMOTARO.」となっている。なお内題はともに「MOMOTARO or Little Peachling.」とある。また出版所が梅花女子大所蔵本では「東京市京橋区日吉町十番地 出版者 長谷川武次郎」、国会図書館所蔵本では「東京京橋区南佐柄木町二番地 出版所 弘文社」と違いがある。国会図書館所蔵本にある南佐柄木町の住所と弘文社の社名の記述は、平紙本『MOMOTARO』(1885.11)と同じである。また国会所蔵本には本文1ページにあたる個所に「明治十九年九月一日内務省交付」とある。  このようにみてくると、初版は1885年8月だが、同じく「再版」と奥付にあるものの、国会図書館所蔵本が1886年9月1日前後の数日間に出版された本、梅花女子大所蔵本はそれよりやや遅れて出版、児童文学館所蔵本は梅花女子大所蔵本と同時期かあるいはそれより遅れて出版された本と考えられる。  なお、このちりめん本『MOMOTARO』は英語版のほかに、造本や内容・挿絵を同じくするフランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語の版があり、それに表紙の異なる平紙本もあり、題簽のみの茶色無地表紙のテキスト版もある。

[解題・書誌作成担当] 石澤小枝子