表紙 本文 挿絵

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 福沢諭吉(1835〜1901)が「児童婦女子」のために書いた明治期の地理の啓蒙書で、教科書としても使用されたベストセラー。全6巻。発行月に8月とあるのは「官許」の月である。見返しに「明治二年巳巳初冬」とあるように、実際の発売は12月下旬だったらしい(冨田正文『日本近代文学名著事典』1982)。第2巻は、『阿非利加洲』、以下、『欧羅巴洲』(第3巻)『北亜米利加洲』(第4巻)『南亜米利加洲/大洋洲』(第5巻)『附録』(第6巻、地理学の総論)。「世界ノ形勢ヲ觧セシメ其智識ノ端緒ヲ開キ以テ天下幸福ノ基ヲ立ントスル」ことを期して、イギリス、アメリカの「地理書歴史類」より訳したものである。開国まもない日本の状況に応じた出版であった。
 かぎ括弧の使用や、人名地名の音訳、半濁音の表記などに説明を施して、読み易さに配慮しており、日本語表記の工夫の面からも注目される。また、「頭書」部分に、記述される内容に応じた挿絵が掲げられ、理解の助けとする。
 本文の文字は、大きく草書体で書かれ習字の手本用としても使われた。また、本文の七五調のリズミカルな文体は、口誦に適していた。冒頭部分を引用すると、「世界ハ広し万国はおほしといへと大凡(おおおよそ)五(いつつ)に分けし名目(みょうもく)は亜細亜亜非利加欧羅巴(あじああふりかようろつぱ)」。このため、自然と調子をつけて暗誦するところとなり、これが後の軍歌調のリズムと関連するという指摘もある(冨田、前出)。口誦により記憶を助けるという方法は、寺子屋などの方法を踏襲したものである。
 反響は大きく、大いに迎えられ、1871年に再版がでている。再版には、初版と同じ6冊本と、合本した3冊本とがあるほか、1872年に本文だけの3冊本「素本」が出され、1875年には、漢字カタカナ交じりの楷書で書かれた「真字素本」が出た。
 1968年日本近代文学館より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則